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【239】

★13年後のク●ヨンしんちゃん(2)★

たいちょ。 (2007年02月22日 18時26分)
8 : たいちょ。◆4L3QSiOSaI :2006/04/07(金) 01:44:48.83 ID:60VRmiQN0

ひまわりちゃんは、悲しそうな顔になって、僕の目の前にごはんを置いた。
そして、両手でわしわしと僕の顔をかきまわす。ちょっと苦しい。
「お腹減ったら、食べればいいよ。」
おしまいにむぎゅうっと抱きしめられてから、そう言われた。

ひまわりちゃんは立ち上がると、段々になったスカートをくるりと回して、
そばにあったカバンを持つ。
学校に行くんだ。
いってらっしゃいと言おうとしたけれど、やっぱり言う気になれなくて。
僕はぺたんとねころんだ。

へいの向こうにひまわりちゃんが消えていく。
顔の前に置かれたおちゃわんを、僕は鼻先ではじに寄せた。

お腹は、ぜんぜん空いていない。




10 : たいちょ。◆4L3QSiOSaI :2006/04/07(金) 01:45:32.66 ID:60VRmiQN0


ごはんを欲しいと思わなくなった。
おさんぽにも、あんまり興味はなくなった。
でも、なでてもらうのは、まだ好き。
抱きしめられるのも、好き。

『ジュケンセイ』っていうのが終わったら、しんちゃんは。
また僕をいっぱい、なでてくれるのかな。抱きしめてくれるのかな。
そうだといいんだけど。




12 : たいちょ。◆4L3QSiOSaI :2006/04/07(金) 01:45:48.60 ID:60VRmiQN0

目を開くと、もう辺りはうすむらさき色になっていて。
また、まばたきしているうちに一日が過ぎちゃったんだと思う。
ここのところ、ずっとそうだ。何だかもったいない。
辺りを見回して、鼻をひくひくさせる。しんちゃんの匂いはしない。

まだ、帰ってきてないんだ。

さっき寄せたはずのおちゃわんのごはんが、新しくなっている。
お水も入れ替えられている。
のろのろと体を起こして、お水をなめた。冷たい。

この調子なら、ごはんも食べられるかと思って少しかじったけれど、ダメだった。
口に中に広がるおにくの味がキモチワルイ。思わず吐き出して、もう一度ねころがる。
夢のなかは、とてもしあわせな世界だった気がする。
僕はまた夢を見る。

しんちゃんと最後に話したのは、いつだっただろう。




14 : たいちょ。◆4L3QSiOSaI :2006/04/07(金) 01:46:14.94 ID:60VRmiQN0

僕はしんちゃんを追いかけている。
しんちゃんはいつものあかいシャツときいろいズボン。小さな手は僕と同じくらい。


シロ、おて
シロ、おまわり
シロ、わたあめ


『ねえしんちゃん。僕はしんちゃんが大好きだよ。』


『オラも、シロのこと、だいすきだぞ。シロはオラの、しんゆうだぞ!』


わたあめでいっぱいのせかいはいつもふわふわでいつもあったかで
いつまでもおいかけっこができる


いつまでも…


いつまでも…


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★13年後のク●ヨンしんちゃん(3)★  評価

たいちょ。 (2007年02月22日 18時32分)

20 たいちょ。◆4L3QSiOSaI :2006/04/07(金)01:48:48.90 ID:60VRmiQN0

また朝がきた。でも、その日はいつもと違っていて。
しんちゃんのお母さんが、僕を車に乗せてくれた。
しんちゃんのお母さんの顔は、気のせいか苦しそうだった。

車はまっ白なお家の前で止まって、僕は抱きしめられたまま下ろされる。
そして一回り大きなふくろの中につめられた。

まっくらだ。どうしようか。

昔なら、びっくりしてあばれてしまったかもしれない。
でも今は、そんな力も出ない。
とりあえず丸くなると、体がゆらゆらとゆれた。
それがしばらく続き、次にゆれが収まって、足もとがひんやりとしてくる。




21  たいちょ。◆4L3QSiOSaI :2006/04/07(金) 01:49:20.46 ID:60VRmiQN0

いきなり辺りがまぶしくなった。
目をぱしぱしさせていると、変なツンとした匂いがする手につかまれ、持ち上げられる。
いっしゅんだけ体が宙に浮いて、すぐに冷たい台の上に下ろされた。
まっ白い服を着た人が、目の前に立っている。そばには、しんちゃんのお母さん。
二人が何かを話している。白い人が、僕の体をべたべた触る。
しんちゃんのお母さんが、泣いている。




22 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:49:54.03 ID:60VRmiQN0

どうして泣いているのか解らないけれど、なぐさめなくちゃ。
でも、体が動かない。またあの眠気がおそってくる。起きていなきゃいけないのに。

なんとか目を開けようとしたけれど、ひどく疲れていて。
閉じていく瞳を冷たい台に向ければ、そこに映るのはうすよごれた毛のかたまり。

なんて、みすぼらしくなってしまったんだろう。




24 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:50:16.79 ID:60VRmiQN0

ああそうか、僕がこんなになってしまったからなんだ。だからなんだ。
だからしんちゃんは、僕に見向きもしないんだ。
おいしそうじゃないから。
あまそうじゃないから。

僕はもう、わたあめにはなれない。




26 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:50:52.84 ID:60VRmiQN0

わたあめ。
ふわふわであまあまの、くものかたまり。

いちど地面に落ちたおかしは、もう食べられないから。
どんなにぽんぽんはたいても、やっぱりおいしそうには見えないよね。

だけど、君はいちど拾っててくれた。
だれかが落として、もういらないって言ったわたあめを。
だから、もういいんだ。




28 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:51:12.89 ID:60VRmiQN0

何かにびっくりして、僕はまた戻ってきた。
見なれた僕のお家。いつもの匂い。少しはだざむい、ゆうやけ空。
口の中がしょっぱい。

「なんで!!!!1!」

いきなり、辺りに大声が響いた。びりびりとふるえてしまうような、いっぱいの声。

重たい体をひきずって、回り込んで窓からお家の中をのぞきこむ。
しんちゃんのお父さんとお母さん、ひまわりちゃん。
そして、僕の大好きなしんちゃんも。
みんなみんな、泣いていた。




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