■ 100件の投稿があります。 |
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これは 【29】 に対する返信です。 | |||
54 名前:第五話(6/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 02:04:19.48 ID:60VRmiQN0 僕は待っていた。 あきらめながらも、いつか。 いつか、おっこちたわたあめでも。 おいしいそうだって言ってくれる人が。 ひろいあげて、ぱんぱんってして。 まだ食べられるぞって、言ってくれる人が、来てくれるって。 59 名前:最終話(1/3) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 02:05:47.18 ID:60VRmiQN0 「シロ。」 名前をよばれて、僕は顔を上げる。しんちゃんが、笑っていた。 まだまだナミダでいっぱいの顔で、それでも笑っていた。 「シロ、くすぐったいぞ。 そんなにオラの涙ばっか舐めてたら、しょっぱい綿飴になるぞ。 しょっぱいシロなんて、美味しそうじゃないから。 だからシロ、オラ、待ってるから。 今度はオラが待ってるから。」 しんちゃん。 「だから、もう一度、美味しそうな綿飴になって。 そんでもって、戻ってくるんだぞ。」 だいすき。 |
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【29】 |
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49 名前:第五話(2/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 02:02:35.86 ID:60VRmiQN0 「ごめんな、ごめんなシロ。オラ、何にも出来なかった。」 ぽつりぽつりと、しんちゃんが話しかけてくれる。 「いっぱい病院回ったんだ、でも、どこも空いて無くて。 空いてるトコもあったんだけど、大抵シロを一目見ただけで…何も。 あいつらきっとお馬鹿なんだぞ。お馬鹿だから、何にも出来ないんだ。」 しんちゃん、泣いてるの? ねえ、泣かないで。 「でも、ホントにお馬鹿なのは……オラだ。」 しんちゃんなかないで。 「オラっ……シロがこんなになってるの、気付かなくて…!! ずっと、一緒にいたのに…親友だって……思ってたのに、なのに!!!」 なかないで、もういいから。 「シロっ…………。」 50 名前:第五話(3/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 02:03:01.37 ID:60VRmiQN0 しんちゃんが泣いている。僕はなにもできない。 せめて元気なところを見せようと思って、僕はしんちゃんのほっぺたをなめた。 しんちゃんのほっぺたは、少しだけ早い春の味。 51 名前:第五話(4/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 02:03:28.44 ID:60VRmiQN0 僕がメスだったら、しんちゃんのために子供を作っただろう。 僕が居なくなっても、寂しくないように。 僕がわたあめだったら、しんちゃんのためにせいいっぱい甘くなっただろう。 僕が食べられても、甘さが少しでも長く口にのこるように。 僕が人間の手を持っていたら、しんちゃんを抱きしめただろう。 僕がしんちゃんにもらった、温もりを返すために。 僕が人間の言葉をしゃべれたら。 きっと、いっぱいいっぱいのありがとうとだいすきを、君に。 52 名前:第五話(5/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 02:03:57.22 ID:60VRmiQN0 ひっきりなしにこぼれるナミダをなめながら、僕はあることに気が付いた。 僕はここを、今しんちゃんがすわりこんでいるここを、知っている。 ここは、僕と君が初めて会ったところ。 僕と君との、始まりの場所。 |
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【28】 |
(%) (2010年02月19日 00時58分) |
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43 名前:第四話(4/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:59:41.64 ID:60VRmiQN0 ぼんやりしていたら、ひょいっとかごから下ろされた。 代わりに自転車を押しているしんちゃんのとなりに並んで歩く。 しんちゃんはずいぶん背が伸びて、お父さんと変わらないくらいになった。 お母さんといっしょに使っている自転車が、ぎしぎしと音を立てる。 でも、どんなに大きくなっても、きれいな女の人に目がいくのは変わらない。 こまったくせだなあと思いながらも、どこか安心してる僕がいる。 いつまでも変わらないでいて欲しかった、少しだけ乾いた風が吹く、秋。 44 名前:第四話(5/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 02:00:07.68 ID:60VRmiQN0 寒い冬。 あんまり話してくれなくなった。 おさんぽも、少なくなって。こっちを見てくれることも少なくなった。 見えるのは横顔だけ。 楽しそうな、悲しそうな。ぼんやりした、困った。怒っているような、悩んでいるような。 そんな、横顔だけ。 寒い冬。小屋の中で、ひとりで丸くなっていた、冬。 45 名前:第四話(6/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 02:00:29.17 ID:60VRmiQN0 寒かった冬。でも、冬は春への始まり。あたたかな春への始まり。 僕は丸まって、わたあめのようになって、あったかいうでの中で。 春の始まりをまっている。 たとえそれがほんのいっしゅんのものでも。 48 名前:第五話(1/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 02:02:11.66 ID:60VRmiQN0 かしゃん、という、なにかがたおれる音がして、僕は目を開けた。 電灯がぽつりぽつりとついた、暗い道の真ん中で、見なれた自転車が横になっている。 のろのろと首を上げると、しんちゃんの前髪が顔に当たった。 道のはじっこのカベに、もたれかかるようにしてしゃがみ込むしんちゃん。 その体はひっきりなしにふるえていて、とても寒そうだった。 僕を抱きしめたまま、動こうとしないしんちゃん。 しんちゃんに抱きしめられたまま、動くことができない僕。 ああだれか僕の代わりに、しんちゃんを抱きしめてあげて。 |
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【27】 |
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36 名前:第三話(4/4) ◆TmK8dn3Gxg 2間違えた… sage 投稿日:2006/04/07(金) 01:56:13.74 ID:60VRmiQN0 しんちゃんがこっちを見た。 しばらく目をきょろきょろさせたあと、僕を見付けて、顔をくしゃくしゃにさせる。 「シロ。」 名前を呼ばれた。本当に、ひさしぶりに。 わん。 なんとか声が出た。本当に小さくて、ガラスごしじゃあ聞こえないかと思ったけれど。 でも、たしかにしんちゃんには届いた。 しんちゃんが近付いてくる。窓を開けて、僕に手をのばして。 「大丈夫、オラが、何とかしてやるぞ。」 やっと抱きしめてくれたしんちゃんの胸は、いっぱいどくどく言っていて、 夢の中の何十倍も、とってもあったかかった。 ねえ、よごれたわたあめでも。 39 名前:第四話(1/6) ◆TmK8dn3Gxg どこまでいけるかな… sage 投稿日:2006/04/07(金) 01:58:12.06 ID:60VRmiQN0 僕は夢を見る。 何度目になるかはわからない夢。でも、それは今までとはちがう夢。 41 名前:第四話(1/6) ◆TmK8dn3Gxg どこまでいけるかな… sage 投稿日:2006/04/07(金) 01:58:27.31 ID:60VRmiQN0 僕は段ボール箱に入っていて、そのはじをしんちゃんがヒモで三輪車に結びつけている。 三輪車がいきおいよく走る。 箱ががたがたゆれて、ちょっときもちが悪い。 ふいに、その箱から引っぱり出され、僕は自転車のかごに乗せられた。 小さな自転車。運転しているのはしんちゃん。せなかにはまっ黒なランドセル。 シロに一番に見せてやるぞって、嬉しそうにしょって見せてくれたランドセル。 まだまだ運転は下手だったけど、とってもあたたかかった、春。 42 名前:第四話(3/6) ◆TmK8dn3Gxg 又間違えた… sage 投稿日:2006/04/07(金) 01:59:03.35 ID:60VRmiQN0 自転車のかごが一回り大きくなる。 くるりとまわると、しんちゃんが今度は、まっ白なシャツを着ていた。 自転車も、新しくなっている。もうよたよたしていない。スピードも、速い。 そういえば、よくお母さんに怒られたとき、 ナイショだぞって僕を、こっそりフトンの中に入れてくれたよね。 もちろん次の日には、お母さんに怒られるんだけど、それでもやめなかった。 二人だけのヒミツがあった、きらきらしてまぶしい、夏。 |
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28 名前:第二話(6/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:51:12.89 ID:60VRmiQN0 何かにびっくりして、僕はまた戻ってきた。 見なれた僕のお家。いつもの匂い。少しはだざむい、ゆうやけ空。 口の中がしょっぱい。 「なんで!!!!!!」 いきなり、辺りに大声が響いた。びりびりとふるえてしまうような、いっぱいの声。 重たい体をひきずって、回り込んで窓からお家の中をのぞきこむ。 しんちゃんのお父さんとお母さん、ひまわりちゃん。 そして、僕の大好きなしんちゃんも。 みんなみんな、泣いていた。 32 名前:第三話(1/4) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:54:02.21 ID:60VRmiQN0 「母ちゃんの行った病院は、ヤブだったに決まってる!! オラが、他の病院に連れてくぞ!!!」 しんちゃんが、ナミダをぼろぼろこぼしながら、怒っている。 ひまわりちゃんも、うつむいたまま顔を上げようとしない。 「しんのすけ、落ち着け。仕方ないんだ。」 しんちゃんのお父さんが、ビールの入ったコップをにぎりしめたまま呟いている。 「仕方ないって、父ちゃんは…ホントにそれでいいの!!!???」 「良いわけないだろ!!!!!」 しんちゃん以上のその大きな声に、だれもなにも言わなくなった。 その静かな中に、しんちゃんのお父さんの低い声が、ゆっくりひびく。 33 名前:第三話(1/4) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:54:26.96 ID:60VRmiQN0 「しんのすけ、良く聞け。いいか、生き物は何時かは死ぬんだ。 それは、俺たちも同じだ。……もちろん、ひまやお前の母さんもそうだ。 それが今。その時が、いま、来ただけなんだよ。解ってたことだろう?」 しんちゃんは、なにも言わない。しんちゃんのお母さんも、続ける。 「あのね、ママが最初ペットを飼うのに反対したのはね、そう言う意味もあるの。 しんちゃんに辛い思いをさせたくなかったから…ううん。 私自身が、そんな辛いお別れをしたくなかったから。だから、反対してたの。 でも、もうこうなっちゃった以上、仕方ないでしょう? せめて、最期を看取ってあげることが、私たちに出来る一番良い事じゃないの?」 「最期って!!!」 しんちゃんが泣いている。ぼろぼろ泣いている。手をぎゅっとにぎりしめて。 僕よりもずっと大きくなってしまった手を、ぎゅっとかたく。 34 名前:第三話(3/4) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:55:04.41 ID:60VRmiQN0 僕の体のことは、たぶんだれよりも僕自身が一番知っていて。 でも、いいと思っていた。 このままでもいいって。 だって夢の中はあんなにもあったかくてあまくって。 だからずっとあそこにいても、かまわないと思ってたんだ。 それじゃだめなの? |
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【25】 |
(%) (2010年02月19日 00時54分) |
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21 名前:第二話(2/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:49:20.46 ID:60VRmiQN0 いきなり辺りがまぶしくなった。 目をぱしぱしさせていると、変なツンとした匂いがする手につかまれ、持ち上げられる。 いっしゅんだけ体が宙に浮いて、すぐに冷たい台の上に下ろされた。 まっ白い服を着た人が、目の前に立っている。そばには、しんちゃんのお母さん。 二人が何かを話している。白い人が、僕の体をべたべた触る。 しんちゃんのお母さんが、泣いている。 22 名前:第二話(3/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:49:54.03 ID:60VRmiQN0 どうして泣いているのか解らないけれど、なぐさめなくちゃ。 でも、体が動かない。またあの眠気がおそってくる。起きていなきゃいけないのに。 なんとか目を開けようとしたけれど、ひどく疲れていて。 閉じていく瞳を冷たい台に向ければ、そこに映るのはうすよごれた毛のかたまり。 なんて、みすぼらしくなってしまったんだろう。 24 名前:第二話(4/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:50:16.79 ID:60VRmiQN0 ああそうか、僕がこんなになってしまったからなんだ。だからなんだ。 だからしんちゃんは、僕に見向きもしないんだ。 おいしそうじゃないから。 あまそうじゃないから。 僕はもう、わたあめにはなれない。 26 名前:第二話(5/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:50:52.84 ID:60VRmiQN0 わたあめ。 ふわふわであまあまの、くものかたまり。 いちど地面に落ちたおかしは、もう食べられないから。 どんなにぽんぽんはたいても、やっぱりおいしそうには見えないよね。 だけど、君はいちど拾っててくれた。 だれかが落として、もういらないって言ったわたあめを。 だから、もういいんだ。 |
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【24】 |
(%) (2010年02月19日 00時53分) |
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10 名前: ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:45:32.66 ID:60VRmiQN0 ごはんを欲しいと思わなくなった。 おさんぽにも、あんまり興味はなくなった。 でも、なでてもらうのは、まだ好き。 抱きしめられるのも、好き。 『ジュケンセイ』っていうのが終わったら、しんちゃんは。 また僕をいっぱい、なでてくれるのかな。抱きしめてくれるのかな。 そうだといいんだけど。 12 名前: ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:45:48.60 ID:60VRmiQN0 目を開くと、もう辺りはうすむらさき色になっていて。 また、まばたきしているうちに一日が過ぎちゃったんだと思う。 ここのところ、ずっとそうだ。何だかもったいない。 辺りを見回して、鼻をひくひくさせる。しんちゃんの匂いはしない。 まだ、帰ってきてないんだ。 さっき寄せたはずのおちゃわんのごはんが、新しくなっている。お水も入れ替えられている。 のろのろと体を起こして、お水をなめた。冷たい。 この調子なら、ごはんも食べられるかと思って少しかじったけれど、ダメだった。 口に中に広がるおにくの味がキモチワルイ。思わず吐き出して、もう一度ねころがる。 夢のなかは、とてもしあわせな世界だった気がする。 僕はまた夢を見る。 しんちゃんと最後に話したのは、いつだっただろう。 14 名前: ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:46:14.94 ID:60VRmiQN0 僕はしんちゃんを追いかけている。 しんちゃんはいつものあかいシャツときいろいズボン。小さな手は僕と同じくらい。 シロ、おて シロ、おまわり シロ、わたあめ 『ねえしんちゃん。僕はしんちゃんが大好きだよ。』 『オラも、シロのこと、だいすきだぞ。シロはオラの、しんゆうだぞ!』 わたあめでいっぱいのせかいはいつもふわふわでいつもあったかで いつまでもおいかけっこができる いつまでも 20 名前:第二話(1/6) ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:48:48.90 ID:60VRmiQN0 また朝がきた。 でも、その日はいつもと違っていて。しんちゃんのお母さんが、僕を車に乗せてくれた。 しんちゃんのお母さんの顔は、気のせいか苦しそうだった。 車はまっ白なお家の前で止まって、僕は抱きしめられたまま下ろされる。 そして一回り大きなふくろの中につめられた。まっくらだ。どうしようか。 昔なら、びっくりしてあばれてしまったかもしれない。でも今は、そんな力も出ない。 とりあえず丸くなると、体がゆらゆらとゆれた。 それがしばらく続き、次にゆれが収まって、足もとがひんやりとしてくる。 |
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【23】 |
(%) (2010年02月19日 00時52分) |
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1 名前: ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:41:45.75 ID:60VRmiQN0 僕はシロ、しんちゃんのともだち。十三年前に拾われた、一匹の犬。 まっ白な僕は、ふわふわのわたあめみたいだと言われて。 おいしそうだから、抱きしめられた。 あの日から、ずっといっしょ。 5 名前: ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:43:23.40 ID:60VRmiQN0 「行ってきマスの寿司〜〜〜〜〜〜。」 あいかわらずの言葉といっしょに、しんちゃんは家から飛び出していった。 まっ黒な上着をつかんだまま、口に食パンをおしこんでいるところを見ると、 今日もちこくなんだろう。 どんなに大きな体になっても、声が低くなっても、朝に弱いのは昔から。 特に今年は、しんちゃんのお母さんいわく『ジュケンセイ』というやつだから、 さらにいそがしくなったらしい。 たしかに、ここのところのしんちゃんは、あんまり僕にかまってくれなくなった。 しかたのないことだとしても、なんだかちょっと、うん。 さみしいかもしれない。 6 名前: ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:43:42.54 ID:60VRmiQN0 せめてこっちを見てくれないかな、と言う気持ちと、がんばれという気持ち。 その二つがまぜこぜになって、とにかく少しでも何かしたくなって。 小さくほえてみようとしたけれど、出来なかった。 なんだかとても眠たい。 ちかごろ多くなったこの不思議な感覚、ゆっくりと力が抜けていくような。 あくびの出ないまどろみ。 閉じていく瞳の端っこに、しんちゃんの黄色いスニーカーが映って。 ああ今日もおはようを言い損ねたと、どこかで後悔した。 7 名前: ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:44:22.87 ID:60VRmiQN0 ぴたぴたとおでこを触られる感覚に、急に目が覚める。 いっぱいに浮かんだ顔に、おもわず引きぎみになった。 ひまわりちゃんだ。 「シロー。朝ご飯だよ。」 そう言いながらこちらをのぞき込んでくる顔は、しんちゃんに似ていて。 やっぱり兄妹なんだな、と思う。 「ほら、ご飯。」 ひまわりちゃんは、片手で僕のおでこをなでながら、もう片方の手でおわんを振ってみせる。 山盛りのドッグフード。まん丸な目のひまわりちゃん。 あんまり興味のない僕のごはん。困った顔のひまわりちゃん。 僕は、それをかわるがわる見ながら、迷ってしまう。 お腹は減っていない。 でも食べなければひまわりちゃんは、もっと困った顔をするだろう。 でも、お腹は減っていない。 8 名前: ◆TmK8dn3Gxg 投稿日:2006/04/07(金) 01:44:48.83 ID:60VRmiQN0 ひまわりちゃんは、悲しそうな顔になって、僕の目の前にごはんを置いた。 そして、両手でわしわしと僕の顔をかきまわす。ちょっと苦しい。 「お腹減ったら、食べればいいよ。」 おしまいにむぎゅうっと抱きしめられてから、そう言われた。 ひまわりちゃんは立ち上がると、段々になったスカートをくるりと回して、 そばにあったカバンを持つ。 学校に行くんだ。 いってらっしゃいと言おうとしたけれど、やっぱり言う気になれなくて。 僕はぺたんとねころんだ。 へいの向こうにひまわりちゃんが消えていく。 顔の前に置かれたおちゃわんを、僕は鼻先ではじに寄せた。 お腹は、ぜんぜん空いていない。 |
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【21】 |
(%) (2010年02月18日 08時35分) |
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これは 【20】 に対する返信です。 | |||
フォークなんてありません。 手で持って、がぶりと食らいつきます。 口の中に、何やら、ベタッとした甘さが広がりました。 もちろん、生クリームではありません。 安価なバタークリームでした。 それが、固まって口の中でもなかなか溶けません。 どうお世辞を言おうにも、美味しいとは思えない代物でした。 全員が口に含んで、とうとう黙り込んでしまいました。 それでも、誰一人「まずい」 とは口にしませんでした。 それは、 K村君の気持ちをわかっていたからです。 クリスマスの日に、仲間の前で、 ちょっとだけでもいいからいい格好をしてみたい。 そのために、きっとお母さんに無理を言って、ケーキを買ってもらった。 お母さんは、息子のためにも相当に思い切って買ったのでしょう。 先生からは、いつも冷たくされているけれど、 一緒に遊んでくれる仲間がいる。 その仲間に、ほんのちょっとだけでもいいから、お礼がしたい。 それは、いつも一緒にいたから、 何も言わなくてもわかるのです。 誰かが言いました。 「公園行こう」 すると、また、誰かが言いました。 「野球やろう」 「いこう、いこう」 K村君の表情も急に明るくなりました。 「僕のバット、持ってくよ!」 「おう、貸しくれよな!」 「うん♪」 実は、そのケーキをどうしたか覚えていません。 最後まで残さず食べたのか。 そのまま置いて公園に出かけたのか。 でも、「公園行こう」 の一言で、気まずい雰囲気が、 パッと明るくなったことははっきりと覚えています。 まだ、9歳か10歳の子供でしたが、 大切なものが何なのか、みんな知っていました。 物は溢れていませんでしたが、 心は豊かでした。 その公園は、少し整備されてキレイになりましたが、 今でも子供たちの遊び場になっています。 K村君の住んでいた家は、今ではコンビニが建ち、 24時間煌々と灯りが点いています。 クリスマスが来るたび、K村君のことを思い出します。 彼はこの聖夜の星の下、どこで何をしているのかな。 間違いないのは、私と同じ、 いいオジサンになっていることです。 メリー・クリスマス♪ |
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