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【243】

★13年後のク●ヨンしんちゃん(5)★

たいちょ。 (2007年02月23日 12時51分)
39 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:58:12.06 ID:60VRmiQN0

僕は夢を見る。
何度目になるかはわからない夢。でも、それは今までとはちがう夢。




41 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:58:27.31 ID:60VRmiQN0

僕は段ボール箱に入っていて、そのはじをしんちゃんがヒモで三輪車に結びつけている。
三輪車がいきおいよく走る。
箱ががたがたゆれて、ちょっときもちが悪い。

ふいに、その箱から引っぱり出され、僕は自転車のかごに乗せられた。
小さな自転車。運転しているのはしんちゃん。せなかにはまっ黒なランドセル。
シロに一番に見せてやるぞって、嬉しそうにしょって見せてくれたランドセル。
まだまだ運転は下手だったけど、とってもあたたかかった、春。



42 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:59:03.35 ID:60VRmiQN0

自転車のかごが一回り大きくなる。
くるりとまわると、しんちゃんが今度は、まっ白なシャツを着ていた。
自転車も、新しくなっている。もうよたよたしていない。スピードも、速い。

そういえば、よくお母さんに怒られたとき、
ナイショだぞって僕を、こっそりフトンの中に入れてくれたよね。
もちろん次の日には、お母さんに怒られるんだけど、それでもやめなかった。
二人だけのヒミツがあった、きらきらしてまぶしい、夏。




43 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:59:41.64 ID:60VRmiQN0

ぼんやりしていたら、ひょいっとかごから下ろされた。
代わりに自転車を押しているしんちゃんのとなりに並んで歩く。
しんちゃんはずいぶん背が伸びて、お父さんと変わらないくらいになった。
お母さんといっしょに使っている自転車が、ぎしぎしと音を立てる。

でも、どんなに大きくなっても、きれいな女の人に目がいくのは変わらない。
こまったくせだなあと思いながらも、どこか安心してる僕がいる。
いつまでも変わらないでいて欲しかった、少しだけ乾いた風が吹く、秋。




44 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 02:00:07.68 ID:60VRmiQN0

寒い冬。
あんまり話してくれなくなった。
おさんぽも、少なくなって。こっちを見てくれることも少なくなった。

見えるのは横顔だけ。
楽しそうな、悲しそうな。ぼんやりした、困った。
怒っているような、悩んでいるような。

そんな、横顔だけ。

寒い冬。小屋の中で、ひとりで丸くなっていた、冬。




45 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 02:00:29.17 ID:60VRmiQN0

寒かった冬。でも、冬は春への始まり。
あたたかな春への始まり。

僕は丸まって、わたあめのようになって、あったかいうでの中で。
春の始まりをまっている。

たとえそれがほんのいっしゅんのものでも。


【☆次回で完結れす☆】

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【246】

★13年後のク●ヨンしんちゃん(7)★  評価

たいちょ。 (2007年02月23日 17時46分)

【最終話】



59 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 02:05:47.18 ID:60VRmiQN0


「シロ。」

名前をよばれて、僕は顔を上げる。しんちゃんが、笑っていた。
まだまだナミダでいっぱいの顔で、それでも笑っていた。

「シロ、くすぐったいぞ。
 そんなにオラの涙ばっか舐めてたら、しょっぱい綿飴になるぞ。
 しょっぱいシロなんて、美味しそうじゃないから。
 だからシロ、オラ、待ってるから。
 今度はオラが待ってるから。」

しんちゃん。

「だから、もう一度、美味しそうな綿飴になって。
 そんでもって、戻ってくるんだぞ。」


だいすき。




61 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 02:06:26.84 ID:60VRmiQN0

ぼくはしんちゃんに抱きしめられながら、さいごの夢を見る。
もういちど、わたあめになる夢を。
もういちど、おさとうになって、とかされて。
くるくるまわって、あまい、あまいわたあめになる。

目ざめたときに、だれよりも、
君がおいしそうだって言ってくれるわたあめになるために。

ふわふわのわたあめ。
さくらいろの、あったかなわたあめ。
君が大好きだっていうキモチをこめた、
君だけのわたあめ。




62 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 02:06:58.49 ID:60VRmiQN0

僕はシロ、しんちゃんのしんゆう。十三年前に拾われた、一匹の犬。
まっ白な僕は、ふわふわのわたあめみたいだと言われて。
おいしそうだから、抱きしめられた。

僕はシロ、しんちゃんのしんゆう。
今度はさくらいろの、ふわふわのわたあめになって。
君に、会いに行くよ。



  〜おしまい〜

.
【244】

★13年後のク●ヨンしんちゃん(4)★  評価

たいちょ。 (2007年02月23日 12時57分)

32 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:54:02.21 ID:60VRmiQN0

「母ちゃんの行った病院は、ヤブだったに決まってる!! オラが、他の病院に連れてくぞ!!1!」

しんちゃんが、ナミダをぼろぼろこぼしながら、怒っている。
ひまわりちゃんも、うつむいたまま顔を上げようとしない。

「しんのすけ、落ち着け。仕方ないんだ。」

しんちゃんのお父さんが、ビ−ルの入ったコップをにぎりしめたまま呟いている。

「仕方ないって、父ちゃんは…ホントにそれでいいのか!!!???」


「良いわけないだろ!!!11!」

しんちゃん以上のその大きな声に、だれもなにも言わなくなった。
その静かな中に、しんちゃんのお父さんの低い声が、ゆっくりひびく。




33 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:54:26.96 ID:60VRmiQN0

「しんのすけ、良く聞け。いいか、生き物は何時かは死ぬんだ。
 それは、俺たちも同じだ。……もちろん、ひまやお前の母さんもそうだ。
 それが今。その時が、いま、来ただけなんだよ。解ってたことだろう?」

しんちゃんは、なにも言わない。
しんちゃんのお母さんも、続ける。

「あのね、ママが最初ペットを飼うのに反対したのはね、そう言う意味もあるの。
 しんちゃんに辛い思いをさせたくなかったから…ううん。
 私自身が、そんな辛いお別れをしたくなかったから。だから、反対してたの。
 でも、もうこうなっちゃった以上、仕方ないでしょう?
 せめて、最期を看取ってあげることが、私たちに出来る一番良い事じゃないの?」


「最期って!!!」

しんちゃんが泣いている。ぼろぼろ泣いている。手をぎゅっとにぎりしめて。
僕よりもずっと大きくなってしまった手を、ぎゅっとかたく。




34 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:55:04.41 ID:60VRmiQN0

僕の体のことは、たぶんだれよりも僕自身が一番知っていて。
でも、いいと思っていた。
このままでもいいって。
だって夢の中はあんなにもあったかくてあまくって。

だからずっとあそこにいても、かまわないと思ってたんだ。
それじゃだめなの?




36 :たいちょ。◆4L3QSiOSaI:2006/04/07(金) 01:56:13.74 ID:60VRmiQN0

しんちゃんがこっちを見た。
しばらく目をきょろきょろさせたあと、僕を見付けて、顔をくしゃくしゃにさせる。

「シロ♪」

名前を呼ばれた。本当に、ひさしぶりに。

わん。

なんとか声が出た。
本当に小さくて、ガラスごしじゃあ聞こえないかと思ったけれど。

でも、たしかにしんちゃんには届いた。
しんちゃんが近付いてくる。窓を開けて、僕に手をのばして。
「大丈夫、オラが、何とかしてやるぞ。」

やっと抱きしめてくれたしんちゃんの胸は、いっぱいどくどく言っていて、
夢の中の何十倍も、とってもあったかかった。


ねえ。よごれたわたあめでも。



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